胡蝶蘭
「お前が拾った奴?」


「ケータイ持ってんだからそうだろ。」



そう生意気な口を叩く少女は、頭の先から爪先まで、ぐっしょりと雨に濡れていた。



「お前、なんで濡れてるんだよ。」


「途中で雨降ってきて。」


「傘、買えよ。」


「お金、持ってないから。」



安心しろ、ケータイは守った。



そう言って、彼女はポケットから黒い偉槻のケータイを取り出した。



なるほど、濡れてはいない。



「じゃ、確かに届けたからな。」



そう言って、彼女は再び雨の中に飛び出て行こうとした。



じゃ、ってお前。



「おい!」



咄嗟に呼び止めた偉槻を、少女は面倒くさそうに振り返った。



「何、まだ何か?」



どうやら自分はよく思われていないらしい。



「ケータイ壊れてた?」



少し考えて、彼女は偉槻に歩み寄る。



自分で守ったと言ったくせに、不安そうだ。



「いや。
だいたいこれ、防水だし、簡単には壊れない。」


「そ。
よかったね。」



じゃ、とまた走って行こうとする。



「だから待てって!」



呼ぶ偉槻もだんだん苛立つ。



なんだって何度も言わせるんだこいつは。



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