胡蝶蘭
Four.
ホンモノ ノ コイビト
*
誓耶は軽快に、錆びた階段を駆け上がった。
一つの扉の前で立ち止まり、約束したリズムでドアをノックする。
すぐに偉槻が顔を出した。
「来ると思った。」
「毎日来てるじゃん。」
「だから、今日も来ると思ったんだよ。」
入れ、と偉槻はドアを開け放した。
お邪魔します、と言って上がると、偉槻は「邪魔だとわかってんなら帰れ。」と素っ気ない。
いつものことなので、誓耶は反応せずに靴を脱いだ。
「偉槻、今日も泊まっていい?」
「駄目だ。」
「なんでだよ。」
「こないだも泊まってっただろ。
さすがに叔父さん心配すっぞ。」
誓耶はぷいっとそっぽを向いた。
「しないよ。」
おい、と偉槻の声が叱るように尖った。
誓耶は顔を背けたまま座る。
「お前、自暴自棄になるんじゃねーよ。
いくら仲が悪くても、叔父は叔父だ。」
「知らない。」
「誓耶。」
とうとう、偉槻が声を荒げた。