胡蝶蘭
Five.
クノウ
*
偉槻はハッと目を覚ました。
また、誓耶の夢を見た。
あの日から、よくあいつの夢を見る。
もう、季節は春。
長い間誓耶に会っていないのに、記憶は鮮明だ。
居酒屋での誓耶の顔。
まだはっきりと覚えている。
ゴメンな、誓耶。
お前は悪くないのにな。
こうするしか方法がみつからなかった。
躊躇して別れようというメールを送らず、誓耶からの連絡を無視しつづけて。
結果、もっと彼女を困らせ、傷つけた。
こっちから突き放したくせに、考えるのは誓耶のことだった。
あいつ、もう立ち直ってんのかな。
ケータイが鳴って、メールの着信を告げた。
連絡するなと言ってから、誓耶は律儀になんの連絡も寄越さない。
自分でするなと言っておきながら、着信音を聞くたびに誓耶かと期待してしまう。
ガラじゃねぇ…。
俺はこんな女々しい奴だったか?