胡蝶蘭



偉槻は久々に軍手をはいた。



ふと顔をあげると、慎吾が忙しく働いているのが見えた。



…そういや慎吾に会うのも久し振りだな。



どうせあいつは相変わらず元気なんだろう。



今までのことを思い返して思わず微笑んだ。



後姿が、たくましく見えた。



あいつもだいぶここに慣れたんだろうなぁ。



偉槻は歩きながら慎吾に声をかけた。



「よぉ、元気か?」



慎吾はくるっとこっちを向いて、満面の笑みで偉槻を迎えた_____はずだった、いつもなら。



ところが今日は。



鋭い目つきで偉槻を一瞥し、歩いていく。



偉槻はわけがわからず棒立ちした。



どういうことだ?



あれは、確かに慎吾だったはずだ。



偉槻は慎吾に追いすがり、肩を掴んだ。



「おい、慎吾。」


「放せよ。」


「なんだ、何怒ってんだ。」


「話したくねぇ。」



…なんなんだ一体。




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