胡蝶蘭
ツレナイイケメン
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偉槻はどんよりとした空を眺めながら、煙草を吹かした。
吐き出された煙が雲に混じって見える。
倉庫搬入口はバイトの休憩時間のオアシスだった。
偉槻は個人居酒屋と物流業のバイトを掛け持ちしている。
というか、居酒屋の店長と物流の社長が双子の兄弟で、偉槻は人手の足りない方に駆り出されるのだ。
店と倉庫が隣同士なのも理由の一つで、店長達は喜んでいるが正直偉槻にはありがたくない。
仕事も明らかに他のバイト、もしかすると正規の店員より多いかもしれない。
同僚の田中は「お気に入りでいいなぁ」とぼやくが、偉槻としては一日代わってみろと言いたい。
とはいえ、可愛がってもらえるのはありがたい。
偉槻はバンド、というか音楽活動もしていて、たまに倉庫を貸してもらっているのだ。
田中も同じバンドのドラムで、大きな音を出すことのできる場所がほぼタダ(代金は偉槻の給料外勤務)で借りれるのは彼にも嬉しいはずだ。
ところが感謝はすると言うものの、田中は一向に偉槻を手伝おうとしない。
他のバイトと比べるまでもなく、全く働かない。
どの面下げて倉庫を貸せというのか。
比較的仲の良い仲間だが、そこがいけ好かない。
偉槻はまた空に向けて煙を吐き出した。
「おい、そろそろ休憩終わるぞ。
さっさと手伝え。」
背中から声をかけられ振り向くと、珍しく田中がダンボールを抱えていた。
いつもなら力仕事は全力で避けるのに、と少々驚いた。
「珍しいな、田中。」
「馬鹿、今俺しかバイトいないんだよ。
偉槻がいないと店長も落ち着かないみたいだし?」
この日本のどこにバイトの1人がいないくらいで落ち着かない店長がいるんだ。