初恋の向こう側

「ねぇ梓真、何か言ってよ?」

「……っ」

「怒んないの?

『そんなこと言うな』って怒ってよ、梓真」

「ヒロ─」


そっと抱いたその肩を、静かに俺は自分の方に引き寄せた。

そしてその手をヒロの頭の上に置いて、音だけで姿の見えない花火を思い浮かべて言った。


「来年は一緒に花火見に行こうな……それで帰りに金魚掬いやヨーヨー釣りをやりに祭りの広場にも寄ればいいじゃん?

昔みたいに林檎飴買って……あっ あと射的もやろうよ。あの頃はいつも俺が負けてばっかだったけど、今度は絶対勝つからさ」


今の俺は、まるでオサが乗り移ったみたいにベラベラと喋ってる。

ガッツポーズなんてして見せたり、かなり必死に笑ってくれよって思ってた。

笑わなくてもいい。
ヒロの中にある深く大きな悲しみを取り除いてやりたかった。

ほんのちょっとでもいいから。
ほんの僅かでも、忘れさせてやりたかったんだ。



高校生活最後の夏も幕を閉じようとしていた。

愁傷色に染まった、残酷で悲哀に満ちた夏が ──


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