妖恋華
「この部屋、好きに使っていいからね。あと聞きたいことがあったら気軽にしていいよ?僕に答えられることならちゃんと答えるから。」
にこりと微笑む虎太郎の笑顔に乙姫もぎこちないが笑顔を浮かべた。
「ありがとう…えと、」
自己紹介は聞いたが、いきなり名前で呼んで相手に不快な思いをさせてしまわないだろうか―――
「虎太郎でいいよ」
乙姫の考えを知ってか、虎太郎は笑顔で名前で呼ぶことを促した。
「ありがとう虎太郎くん。」
お礼を告げると虎太郎くんはきょとんとした顔をした。
変なことを言っただろうか――少し不安になる。
しかし、虎太郎はすぐにさっきまでの人懐っこい笑顔に戻り、くすくすと笑い出す。
「あ、ごめんね?なんか新鮮だなぁって…」
新鮮?何が?と問う前に虎太郎が口を開いた。
「居間に行こっか。たぶん、もうご飯出来るから。」
「うん。」
二人で階段を下りて行くと、いい香りがしてきた。
するとちょうど台所から青が出てきた。
「あっ、青ちゃん!ご飯出来たぁー?」
「…大体は」
ちらっと乙姫を一瞥する。
乙姫にはその瞳がどこか冷たく感じた。
目が合ったのは一瞬で青年はそのまま台所へ戻ってしまった。
冷たい瞳――。
向けられた敵意に悲しくなる。しかし、それ以上に彼の瞳から敵意以外の何かを感じた。
後ろ姿を何気なく見つめる。
「………」
「青ちゃんは優しい子だよ?」
「え…?」
青年の後ろ姿が台所へと消え、廊下には二人だけが残されたとき、虎太郎は突然青年について話し出した。
「誤解されやすいけど青ちゃんは本当はとってもいい子なんだよ?」
「でも、嫌われちゃったみたいだね……」
俯いて呟くと虎太郎は手を顎に当てうーんと唸り、首を傾げながら何か思案した後口を開いた。
「嫌うって言うより青ちゃんの場合は――――」
「飯だ」
虎太郎の言葉を遮るように後ろから青の夕飯の完成を知らせる声が聞こえた。