妖恋華
虎太郎は呆然とする乙姫を心配するように覗き込みその手を握った。
そういった行為からは、彼が外見通りの人懐っこさと優しさを持っていることが窺える。
「部屋に行こっか……」
「私…帰れないの、かな……?」
やっぱり華紅夜の言ったことには納得出来ず少年に問い掛けた。
すると少年の動きがぴたっと止まってしまった。少年の手の力がスッと緩み、繋いだ手が解けてしまいそうだった。
「……?」
そんな虎太郎の反応に乙姫は疑問符を浮かべ、口を開こうとした。そのとき――再び少年の手に力が入るのが分かった。振り返った少年は申し訳なさそうに笑顔を浮かべていた。
「ごめんね……」
これが少年にとって、精一杯の言葉だった。
少年の眉の下がった笑顔に乙姫もただその言葉を受け入れることしかできなかった。
少年の言葉の真意は分からないが、そこからは優しさが伝わってきた。
乙姫が案内されたのは二階の一室。
二階には四部屋存在している。
手前の向かって左側が虎太郎の部屋、向かって右側が青の部屋。青の部屋の隣が乙姫の部屋になっており、虎太郎の隣の部屋は空き部屋になっていた。
「みんなは一緒に住んでるの?」
「うん。僕と青ちゃんは華紅夜様のお世話になってるんだ。」
華紅夜様。初めて会った私の祖母――。
彼らにとって彼女は一体どういった存在なんだろう。
三人の関係性は分からない――何故一緒に住んでいるのか。
聞きたいことは沢山あるが決して言葉にはしなかった。
それは遠慮しているということもあるが何より恐かったのだ――知ってしまうことが。