月と太陽の事件簿14/隙間女の視線
「何か動きはありましたか?」

達郎の問い掛けに、星野警部補は表情を引き締めた。

「泉田が戻ってきた」

車内に緊張が広がった。

「それは何時頃ですか」

「つい5分ほど前だ」

時計を見て答えたのは越沼さん。

キャリア30年の巡査長で交番勤務から捜査一課に移った、叩き上げの刑事(デカ)だ。

範子の部屋からちょうど死角となる、この位置からの張込みを提案したのは越沼さん。

しかし、今日の張込みにはいささか参っているようだった。

「もう夕方だってのに、こう暑くちゃなぁ…」

本日の最高気温は36℃。現在の気温も30℃を超えているだろう。

車の窓を開けたところで状況は変わらない。

かと言ってエンジンをかけて、エアコンをつけるわけにもいかない。

範子の部屋に踏み込むのは簡単だが、逆上した泉田が何をしでかすかわからない。

最悪、範子の身に危険が及ぶ可能性がある。

つまり、このサウナのような車内で待つしかないのだ。

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