月と太陽の事件簿14/隙間女の視線
範子は悟ったような口調で言った。

泣きぼくろのあるその顔をよくよく見てみれば、どこか生気がない。

頬も微かにこけているし、視線もどこかおぼつかない。

この人は泉田の素性にもあたしたちがここに来た理由にも、関心がないのではないか?

『なんか変だ、この人』

あたしはだんだん範子に不気味なものを感じるようになっていた。

「ちょっと失礼します」

そう言って岸警部が立ち上がった。

携帯電話を手に、台所へ向かう。

きっと本庁へ連絡するのだろう。

座敷にはあたしと範子だけになり、妙な沈黙が生まれた。

扇風機の羽音だけが部屋に響く。

あたしは何かを言いかけて、すぐに思いとどまった。

理由は、何を喋ったらいいかわからなかったからだ。

言ったところでこの女性(ひと)には通じるのか。

そんな妙な考えが浮かんだことも理由のひとつ。

だからといって、あたしと範子の間にある沈黙は埋まらない。

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