予定、未定。
強い力で動きが遮られる。

何事かと振り返ると、白い華奢な手が俺の腕を掴んでるのが見えた。

(…何だよ)
邪魔、しやがって。

軽く苛立つ。

止められたことにも、他人に触られたことにも、…見られていたことにも。


俺が溺れたようにでも見えたのだろうか。
…もしそうだったらコレは有り難いことだろうけど。


今は、只のお節介だ。



……なんて、後から考えれば、八つ当たりもいいところなのだけれど。


その手を辿っていけば、当然、手の持ち主に行き着く。


(…女…?)


小型のボートから身を乗り出して、俺を進ませまいとしているのは見知らぬ女だった。


誰だ、とか思ったのは一瞬で。

すぐにその容姿に目を奪われる。


潮風に靡く、長い髪。

手と同じ、細い身体。

可愛いとも、綺麗とも、とれる端正な顔。

全てのパーツが見事に整い過ぎてて。

そこらのモデルやアイドルなんて彼女と並べば、くすんでしまうだろう。

それぐらい彼女は、お世辞抜きで
…いや、彼女にお世辞なんていらない。そぐわない。


かなりの、美少女、だった。


…不本意にも、見とれてしまった。

そのせいで俺に対する言葉も聞こえず、彼女の表情まで気付けなかった。


「…ちょっと。聞こえてんの?」


その言葉で我に返る。

声まで綺麗って……もう何なんだろうこの子。


とうとう感心の領域まで行き着きかけた俺の思考を遮るように、次の声がかかってくる。


「ねぇ、聞いてんのって!!
あんた何してんの?!」


…透き通った声に、刺々しい響きが含まれているのに気づいた。

整った顔には俺が数秒前までしていた苛立ちの表情があった。

形の良い眉はつり上がり、小さい唇からは不機嫌な声が出てくる。


…結構な凄みがある。
怖。


―――特に、目が。

真っ直ぐ貫いてくる目は睨み、咎めているのが分かる。



だから、俺も分かった。
『何してる』と聞きながらも彼女はしっかり理解してる。


分かった途端、すっかり失せていた怒りが再び湧き上がってきた。


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