キミが刀を紅くした

 椿の間へ向かった俺は、その襖を軽く叩いた。どうぞどうぞ、と軽い声が聞こえて来たと思ったら襖が勢いよく開いてしまった。

 俺は驚いたが、中にいる人を見てその勢いには納得した。



「慶喜殿――ご無沙汰しておりました。失礼いたします」


「うむ」



 何とも言えない空気が俺の心身に張り付いた。部屋に足を入れると再び激しい音を立てて密室にされてしまった。半助殿だ。



「椿から村崎が下に来ていると聞いたもんで、少し話でもと思って呼んだんだ。楽に構えなさい」


「はい」



 勧められた場所に座った俺はかしこまったまま半助殿が持って来た茶を飲んだ。俺が新調した茶より土方さんがくれた茶より、もっともっと美味い。旨味が凄い。

 俺が茶に感動している事には一切触れず、彼は話し出した。



「実は村崎の話は、お主に出会う前から宗柄から聞いていたんだ」


「そうでしたか」


「その刀、芥生流水だな」


「はい」


「大和屋宗柄が初めて打って仕上げた刀。村崎の手に渡って宗柄もさぞ幸せだ。昨晩もそれでか?」



 何の躊躇もなく切り出された昨晩の話。俺は茶を飲む手を止めて慶喜殿の様子を伺った。だが何ら変化はないしその予兆もない。

 俺は小さく頷いて言った。



「お聞かせ願えますか慶喜殿」


「うむ。言ってみなさい」


「上松殿を殺さなければならない理由があったのですか?」



 慶喜殿は口に物を運ぶ手を止めて黙り込んでしまった。俺は後悔と言うより恐怖に支配される。

 もし単なる反幕防止の為に紅椿が遣わされたのなら、俺はどうすれば良い。予防なんて曖昧な理由で人を殺めてしまった俺は――。



「案ずることはない、村崎。俺は私利私欲のために人々を恐怖に巻き込むつもりはない。上に立つ者として――時代とこの世を護るのが俺に課せられた役目なのだ」



 彼は少し笑った。



「上松京吾朗は殺すに値する人間だ。それは覚えておきなさい」


「――はい」

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