キミが刀を紅くした

鬼神と夜帝


 偶然居合わせたと言うのはあながち間違いではないが、俺はあの時、故意に島原に向かっていた。

 理由は簡単。吉原の旦那が瀬川の兄さんから刀を借りたと小耳に挟んだからだ。何か事件の臭いがすると思って島原に行ったのだ。



「消えたのは島原の女全員か?」



 だが俺が関わったのは事件と言うより奇怪な現象だった。何十といる人が数時間で消えたのから。しかも何の痕跡も残さず、だ。

 俺は頓所で始終を土方さんに報告していた。吉原の旦那は瀬川の兄さんと椿の姉さんが見ている。



「いや、全員じゃないんですよ。一人だけ押し入れで寝ていた首代がいました。京さんなんて呼ばれてましたが本名は一応不詳です」


「そいつは西崎の一件の時の女だな。事情は聞いたのか?」


「いいえ。それが酷い怪我でね、今頃医者にかかってます。だから一人だけ置いて行かれたんだって瀬川の兄さんは言ってましたが」


「詳しい事情を知るには女が回復するのを待つしかないって事か」



 土方さんはため息と共に頭を抱えた。彼に取っちゃ残念無念だ。島原をも護りたくて紅椿に入ったのに結果がこれじゃ、参るね。

 だが今回の件はどうしようもないだろう。誰があんな奇怪な事を出来ると言うんだ。謎だなあ。



「新撰組は島原の事件には手を出さないって暗黙の了解、どうします? 続けて守りましょうか?」


「そうだな。今後の均衡を考えればそれは守るべきだ――だが」


「はい」


「瀬川と中村と共に友人として吉原の事を見てろ。俺は京と言う女から少し話を聞いてくる。後、総司、この件は他言無用だぞ」


「勿論です」



 俺は一足先に立ち上がって襖を開いた。だが出ていこうとした途端に土方さんに声をかけられる。

 そして畳に置かれた文を見た。



「お前に名指しで文が来るのは久しぶりだな。内容は――島原の夜帝若しくは鬼神を討ち取れ。だそうだ。服部が持って来やがった」


「――日に日に趣味が悪い注文になりますね。吉原の旦那かあの負けなしの夜帝を討ち取るなんて」



 俺は封に入った文と花びらを懐に入れて、ため息を吐くと、今度こそ土方さんの部屋を後にした。

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