キミが刀を紅くした
現れた土方さんは俺が思っているより余程落ち着いていた。穏やかと言う言葉が似合うかも知れない。大人しい、落ち着きがある。
「俺に用だと聞いたが」
「はい。あの……昨夜の事で」
「あぁ。昨日は悪かった」
笑顔も何もない。その下げた眉で謝られると俺は言葉が出なかった。本当は俺が先に謝罪をしようと思っていたのに。どうして。
心を読まれたみたいだ。
「私情に流されて刀を持つのは何年振りだったか、あの時は……色々と考える事があったからな。お前には気に病ませて悪かった」
「沖田さんからお聞きに?」
「あぁ。だが何となくお前が気に病んでるだろうとは思っていた」
土方さんは優しく笑んだ。昨日の事なんてなかったかの様な笑みに、俺は少しだけ不安を覚えた。ただ、笑っているだけなのに。
だから、すいません、と口をついで出たのは無意識の事だった。
土方さんは黙って首を振る。
「お前に謝られる筋合いはない。それともお前は信念を曲げて俺を止めようとしたか? 違うだろ」
「はい」
「己の全ては己で責任を持て。お前は今の時世では珍しいくらいに素直な奴なんだから。俺たちとは違う。時代には負けるな、瀬川」
「――何だか悟らせますね」
「偉そうか?」
「いえ、とんでもない。肝に命じます。でも少し、らしくない気がしたので。土方さんは……その、物静かで厳格な印象でしたから」
「副長なんてしてると、嫌でもそうなる。近藤さんはお人好しだから、人を導くがまとめられない。総司は好き勝手だろう。立ち回るのは上手い癖にあとが悪い」
「人をまとめるのは大変ですね」
「そうでもない。集まる人間による。大和屋みたいな奴でもあれをまとめられるんだからな。なあ」
「はい」
「紅椿は何のためにあるんだ」
「え?」