キミが刀を紅くした
徳川の屋敷の前には確かに服部が居た。それも本物の番犬の様に四方八方に視線を配り、いつどこから誰が来ても対応出来る様に目を光らせているではないか。
「よう、服部。仕事熱心だな」
「何の様だ」
「お前の主に会いに来た。居るんだろ、急ぎだ。さっさと通せ」
服部は顔色一つ変えずにとおせんぼをしたままだ。優秀な番犬は黙ったまま眼光だけで帰れと訴える。別に帰っても良いんだよ。
村崎さえ関わってなければ。
俺は刀の鞘に手をかけて抜く振りをした。すると服部は速攻とばかりに俺の手を塞ごうとする。さすが忍と言った所だろうか。
だが俺はその動きを予想していたので、和風な門を足掛かりに服部の肩に足をかけ、さらに上にある屋敷の一階の小屋根に手をかけよじ登った。あぁ上手く行った。
「貴様っ」
服部はすぐに壁を使って上によじ登って来たが、奴に捕まる前に慶喜殿がいつも使っている部屋に飛び込むのは簡単だった。
勿論、彼は職務中ではない。此処に居る時は休暇のようなものなのだから。職務な訳がない。
「無礼を承知で来た。貴方に聞きたい話がありすぎてな、慶喜殿」
「誰が通せと言った、半助」
いつもの倍は冷たい目が服部を捉えていた。俺には目もくれない癖に、旧知の奴には酷く酷い。
服部は一瞬怯えた様な表情を見せたが、すぐに頭を深く下げた。
「申し訳ありません」
「……まあ良い。何か用か」
「今、貴方が何を考えているか聞きたい。一体何をする気なんだ」
「何を、か」
「土方と吉原は貴方があいつらを試した事には勘付いている。何の為に、かは知らないけどな」
慶喜殿は少しだけ俺を見定める様な目付きで眺めると、 口元に笑みを浮かべた。服部は俺の少し後ろに立ち尽くしたままだ。
まるで敵と顔を合わせている様な錯覚に陥る。相手は敵にしてはいけない男だと言うのに。
何故か。