キミが刀を紅くした

 目を開けたら、俺は誰かの家の床で眠っていた。少し埃っぽい香りがする。木の臭いと鉄の臭いが混じったようなそんな香りも。



「大和屋!」



 呼ばれて振り向くと村崎が眉を下げて俺の方を見ていた。お隣さんのよしみで運んでくれたのだろうか。じゃあじいちゃんにも張れてるかも知れないなあ。あぁ、それより。



「村崎、まだ甘味屋は開いてる時間か?」


「何言ってるんだ、お前」



 伸びをしようと思って起き上がるといつもと違う感覚に俺は自分の身体を見た。真新しい着物。見たことがない。どうして俺は着替えているのだろうか。

 ふと、村崎が俺の両肩を持った。



「なんだよ」


「お前なんで、家出なんか」


「おい、村崎」


「おまえ、がっ」



 俺の肩を持ちながらぼろぼろと泣き始めた村崎。俺は意味が分からず手を伸ばし、爪の間が汚れているのを見つけた。土じゃない。じゃあなんだ。刀の錆び? そういえば。



「村崎、俺の刀は? て言うかお前はなんで泣いてるんだ。説明しろよ。わかんねぇ。なんで俺は着替えてるんだ。ここお前の家だよな。お前が運んだのか?」


「大和屋」


「なんだ」


「俺は酷い事、お前に言う」


「なんだよ」


「大和屋さんが、殺されたんだ」


「は?」


「俺が行った時、には、もうっ。浪士はいなくて、橋の上で、大和屋さんが、倒れてて」


「待てよ。俺は橋の下に居た」



 じいちゃんが死ぬわけないじゃないか。そう思って否定するが、頭に浮かぶのは確信を得るような証拠ばかり。途切れ途切れに聞いたじいちゃんの声は俺が眠ったせいではなかったのかも知れない。あの橋の上の足音はきっと、浪士がじいちゃんを追い詰めていたおとかもしれない、と。

 あぁ、じいちゃん死んだのか。俺はもしかしてその血を浴びたんじゃないだろうか。

 こんな時だけ無駄に回転が早い頭が酷い風景を映し出す。第三者目線でのその映像は、俺を探したじいちゃんが、俺の頭上で斬り殺されたところだった。俺は寝ていた。



「俺は、橋の下に居たぞ」


「知ってる。見つけたのは俺だから」



 村崎は鼻をすすった。



「お前が?」


「夕刻から大和屋さんがお前を探してたんだ。この家にも来た。お前が来たらどうか、しばらく居させてやってくれって。でも見付からないから、父さんと母さんがお前を探しに出掛けた。その時に俺も出たんだ」


「なんでお前まで」


「俺は武士だから」



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