キミが刀を紅くした

 武士だから俺を探しに来た。そうじゃない。多分、村崎は武士だから両親に心配されてないんだ。武士だから。俺はその時、村崎の人生の大半を理解出来た気がして息を吐いた。

 この泣きじゃくる男が武士か。将軍にも使えるほどの父親はきっと、息子を完璧な道順に沿わせて立派な武士にする気だろう。俺とは真逆。だが村崎は俺の唯一を持っていない。



「村崎」


「なんだ?」


「お前、何で俺に酷い事を言うって言ったんだ?」


「俺がもっと早く見付けていれば、助けられたかも知れないから。大和屋さんもお前にも申し訳ない、本当に、ごめん、大和屋」



 なんてお人好しなんだろうと思った。だがそれが敷かれた道筋を歩き続けてきた瀬川村崎と言う男なんだと思うと、なんとなく哀れに思えた。だが同時に、今の俺には近しく人として愛しいと思えてしまった。

 馬鹿だろ、こいつ。


 俺は立ち上がり、村崎の頭に一度だけ手を置いてから彼の家を出た。外は明るかった。いつもならかんかんと煩いぐらいに鎚の音が響いているはずなのに、瀬川家の隣は静か。




「大和屋、何処行くんだ?」


「帰る」


「でも」


「別に鍛冶屋で殺された訳じゃねぇんだ。入っちゃいけねぇ事はないだろ。この着物も後で返すから。あとお前、酷い顔してんぞ」


「え?」


「お前の父さん厳しそうだし、ちゃんとしといた方がいいんじゃねぇのか? 俺が泣いてねぇのにお前が泣いたんじゃ馬鹿みたいだろ」



 村崎ははっとした様な顔をして俺に深く頭を下げた。やめろよ、と言いたい所だったがその言葉は出せず。俺はそのまま黙って家に入った。



「う、わぁ」



 いないんだ。もういないんだ。

 そう思うと嗚咽が出てきた。俺は玄関の鍵をきっちり閉めてその場にへたりこむ。それから両手で顔を押さえて叫ぶ様に泣いた。

 頭の中には後悔しか残っていなかった。

 じいちゃんに言いたい事は山程あった。



「ああああああああああああっ!」



 声が出なくなればいいのにと思ったが、俺の喉は思った程弱くなかった。俺の爪の間に入ったじいちゃんの血が俺の涙で流されていきそうで怖かった。思い出すのは寝ていたはずのじいちゃんが殺される風景ばかり。

 俺の想像でしかない。だがきっと俺の頬をその血は伝って行ったに違いない。今、そこを流れている涙のように。俺はじいちゃんの血を洗い流す勢いで叫び、咽び泣いた。



 勿論それがいつまでも続くはずもなくて。俺は疲れ果てて泣くのをやめた。一人で泣くのは気楽で良いなあ、なんて思って。俺は家の鍵を開けてから着物を脱ぎ捨てた。きれいに畳んで自分の古着を身に付ける。

 ふと、かまどが目に入った。

 じいちゃんがいつも座っていた所に座るとなんだかしっくり来た。鎚を握ってみると重たかった。じいちゃんは結構肉付きがよかったから、筋はその下に隠れていたのかもしれない。



「……ふう」



 なんだか疲れた。

 俺はそう思って椅子から降りると、土の床に寝転んだ。冷たいそれが肌に触れる。じいちゃんは橋の上で殺されたんだったかな。それなら、ここよりは。暖かいだろうな。


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