Sin(私と彼の罪)
「なんにもないです」
「振られた?」
「違います」
「浮気された?」
「違う」
あれは浮気なんかじゃない。
そもそも私達はそういう関係じゃない。
この頃の自分の調子の悪さには気付いていた。
でもそれが、ゼンに会わないからだとは思いたくない。
だってそれじゃまるで私がアイツを求めてるみたいだ。
そんなの、不毛だ。
あんな得体の知れない男を思うなんて、シノには無理だよ。
なんとなくだけど、ゼンは私たちとは違うセカイにいる。
口では経営者とか言っていたけど、実際何しているかなんてわからない。
彼が電話ごしに、そういうワードを漏らしたこともあった。
怖いお兄さんたちが使うような。
まるで映画やドラマでしか聞いたことがないような、ワード。
極めつけは、腕にある大きな傷。
もう治ってはいるが、肘に銃弾だろうか。
大きな傷の痕があった。
治っているとはいえども、痛々しくてしょうがない。
ゼンはそれについて何も言わなかった。
きっと彼は、私たちの知らないセカイを知っている。
人には自慢できない仕事。
口には決して出さないけど、消耗しているのがわかる。
そんな男、シノには荷が重いよ。
ゼンが欲しい、なんて思わないことね。
私は飲みかけのグラスを一気に飲むと、辺りを見回した。
今日は今月でやめる人の送別会、ということでみんな食べたり飲んだり騒いでいた。
私の働くレンタルショップは若い人が多いので、こういう飲み会はちょくちょく開かれる。
でも私はなぜかそういうのに行った記憶があまりない。
毎回やる日が都合が悪かったりしたのだ。
だから仕事以外で初めて喋る人も多かった。
「えーっシノさんて彼氏いんの?」