Sin(私と彼の罪)



薄っぺらい三流映画のようだ。







そう思って、手元のピストルを構えた。


トリガーに指を掛ける。





「や、やめてくれ…金ならあ」




続くはずの言葉は潰れた様に途切れた。

サイレンサーの空気音が静かな室内に響く。


そのすぐ後に、ドサリと男の崩れた音がした。



直前まで手にしていたブランデーのグラスが床に落ちて、高そうな絨毯にシミをつくっていく。

それと対抗するように、脂ぎった男の額からは毒々しい色の血が、大量に流れ出た。







「相変わらず仕事が早いな」


後方から癖のある低い声が聞こえた。


「…来てたのか」

「まあ、ちょっと心配でな」



その言葉を鼻で笑う。

俺はピストルを懐にしまうと振り返った。



「俺がしくじったことなんてあるか?ボス」


そう言うと、男は苦笑した。


「その呼び方はやめろ。冗談だよ、お前の腕は信頼してる」


「…珍しいじゃないか、あんたがこんなとこまで来るなんて」



俺はポケットからキメの細かいハンカチを取り出して、さっきまで自分が握っていたグラスをぬぐった。

一様に倒れた椅子の背もたれも手早く拭く。

自分の触れた場所はすべて覚えていた。



< 59 / 126 >

この作品をシェア

pagetop