Sin(私と彼の罪)
薄っぺらい三流映画のようだ。
そう思って、手元のピストルを構えた。
トリガーに指を掛ける。
「や、やめてくれ…金ならあ」
続くはずの言葉は潰れた様に途切れた。
サイレンサーの空気音が静かな室内に響く。
そのすぐ後に、ドサリと男の崩れた音がした。
直前まで手にしていたブランデーのグラスが床に落ちて、高そうな絨毯にシミをつくっていく。
それと対抗するように、脂ぎった男の額からは毒々しい色の血が、大量に流れ出た。
「相変わらず仕事が早いな」
後方から癖のある低い声が聞こえた。
「…来てたのか」
「まあ、ちょっと心配でな」
その言葉を鼻で笑う。
俺はピストルを懐にしまうと振り返った。
「俺がしくじったことなんてあるか?ボス」
そう言うと、男は苦笑した。
「その呼び方はやめろ。冗談だよ、お前の腕は信頼してる」
「…珍しいじゃないか、あんたがこんなとこまで来るなんて」
俺はポケットからキメの細かいハンカチを取り出して、さっきまで自分が握っていたグラスをぬぐった。
一様に倒れた椅子の背もたれも手早く拭く。
自分の触れた場所はすべて覚えていた。