Sin(私と彼の罪)
薄暗い店内。


選ばれた人間だけの、洗練された空間。



カウンターには数人の男が座り、高い酒を片手に談笑している。

スタンドタイプのテーブルも何台かあり、そこも人で埋まっている。


店はそんなに広くはない。
洒落たジャズが流れ、いかにも洋画に出てきそうな雰囲気だ。


普通の店と違うのは、ここが会員制だということ。



そこで行われるのは、大体が違法な取引だ。


顔を合わせあい、紙切れと脂ぎった表情を睨みながら、社会の要人達は互いに利益を高め合う。




グリモワールは、一部の人間とっては有名な場所であった。





このような場所なら、ヨコイが現れてもなんら不思議はない。



ヨコイ達の組織とは、直接対峙しているわけではないが、お互いに鼻を利かせているのは承知のことだ。

一触即発。


まさにそういう状況。

手は出しはしないが、向こうが出してきたら容赦はしない。




俺は店内を見回した。


特に変わった様子はない。


奥のテーブルには男が三人ほど集まっている。

そこに酒を運んでいる女に目をとめた。



すらりと伸びた肢体。
色白で、華奢な体つき。




俺は彼女の観察を続ける。


この店で働いている、香水臭い女に聞いた情報通りだ。



まあ、一晩を共にしただけの女だったが。


俺は自分の使い方を一番よくわかっている。


その辺にいる女なんて、大体は俺が微笑めば後をついてくる。

その要領で、昨日も情報と快楽を一度に手にしていた。


昨日の女からヨコイについての直接の情報は得られなかったが、おもしろいことを聞いたのだった。



すぐそこにいる色白の女。



彼女こそが、ヨコイのお気に入りの店員らしい。


俺は戻ってきた彼女に近寄った。



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