Sin(私と彼の罪)
この柔らかい肌に爪を立てると、あの日のことを思い出す。
罪悪感や、背徳感などはもとより持ち合わせていない。
だから悔やむつもりも毛頭ないが、あのスガヤの笑みを思い出すと気分が悪くなった。
そんなことは、女を抱いているときに考えることではないか。
俺は自分の真下に居る女を見下ろす。
しなやかに伸びた肢体に、雪のように真白でなめらかな肌。
愛撫をするたびに波打つ体が、ぼんやりと明かりで照らされてなんとも色っぽい。
キスをするたびに志乃は泣いた。
怖い、と繰り返して俺にしがみつく。
小さな子供をなだめるように、俺はそのたび「大丈夫」と呟いた。
彼女の精神状態は最悪だった。
毎週来るはずの志乃が来ないことに気付いた母親から電話があったらしい。
そこで自殺の狂言まがいのことを言われたとか。
それだけでも志乃にとっては辛くてしょうがないはずなのに、ヨコイの監視の目も止まない。
家のポストに脅迫のような内容のメモが入っていたり、四六時中視線を感じたり。
最近では一人でいるのが嫌だというので、俺は志乃のアパートで寝泊まりしていた。
不安からか毎晩体を求めてくる彼女に、毎晩付き合った。
キスして、撫でて、抱き締める。
喘ぐ志乃が、痛々しくて、目がそらせなかった。
頬を伝う涙を、不謹慎にも美しいと思った。
実態のない女を抱いているような気がした。
このまま居なくなってしまうのではないか。
バカみたいな考えがよぎる。
そのたびにぐちゃぐちゃに塗りつぶして、忘れようとする。
限界が近いことに、俺は気付いていた。