Sin(私と彼の罪)
「お前さ、バイト休めよ」



俺がそう言うと、志乃は顔をしかめた。

さっきまですり寄って泣いていたというのに、気の強い女だ。


「だめだよ。お金がいるんだから」

「でも、今はいいだろ」



少しきつく言うと、きっと睨まれた。

俺は間違ったことは言っていない。


「休むって言っても、いつまで休むの?ヨコイさんや、お母さんが死ぬまで?私は、お金がいるの…」

「じゃあ、一週間だ。金がいるって言っても今のお前に仕事なんてさせらんない」

「なんで善が決めるの」


くすり、と疲弊しきった顔で笑われる。

だから、そんな顔させたくないんだ。



お前はもっとうまく笑えるはずだろう。




「俺が一週間でどうにかしてみせる」

「冗談やめて」

「俺を信じれないわけ」

「信じられるわけない」



軽く舌打ちをして、彼女をもう一度押し倒す。
なんの抵抗もなく横たわった志乃の肌に吸いつく。

真白のなかに、鮮やかな赤が散る。


「信じてくれ」


人形のように動かない志乃に懇願する。



赤が増えていく度、だんだんと不安になる。

彼女にこのまま仕事を続けさせたら、せっかく守ろうとしているのに自ら危険に晒すことになる。


そんなことは、させられない。


するとふと、志乃が口を開いた。



「…約束の、印」

「あ?」

「くれるなら、いいよ。一生消えないやつ」

「バイト、休むのか?」

「うん」

「…一生消えないの、ねえ」




何を考えているのだろう。


今までは、キスマークなど独占欲を誇示するものなど強請らなかったのに。




「誓えないの?」

「…いや…でも、痛いぞ?」

「それくらいがちょうどいい」


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