Ne soyez pas desespere

あー…でも、原稿終わらせなきゃやばいんだよなぁ…。


俺の逡巡が伝わったのか兄さんが声をかけてきた。


「どーした?」


「あー…。友達が明日遊ぼうって…。でも原稿終わってないし…」


「…遊んでくりゃいいじゃん。こうなりゃ1日も2日も同じようなモノだよ。気分転換してこい!」


「うーん……」


「大丈夫だって!頑張ったら原稿ぐらい何とかなるさ」


「……そっか。うん。行ってくる!」


「おぅ」


俺は優柔不断だから兄さんのこういうところにちょっと憧れている。


…ちょっと、だけどな。



俺は総にオッケー。とメールして携帯をポケットにしまう。


「神田瑠璃…かぁ」


「ああ、あのピアニスト?すごく有名だよな」


「…すごかった……」


「そーだな。また聞きに行きたいなぁ……」


「うん。……でもあの人、見た目中学生ぐらいにしか見えないけど……」


「はは…確かに背も低くて可愛いしねぇ……ま、優花が1番だけどね」


「………惚気かよ」


優花さんというのは、今日一緒にコンサートに行く予定だった兄さんの今の彼女だ。


兄さんは今まで多くの女の人と付き合ってたみたいだ(と前家に来た兄さんの友達に聞いた)けど、家に連れてきたのは優花さんが初めてだった。


……本気の恋、かぁー。



あー…。

恥ずかしながら、俺は彼女というモノを作ったことがない。


いや、告白されたりしたことはあったが、好きでもないのに付き合う気になれなかった。


まぁ、つまり、恋愛経験が無いのだ。
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