月の恋人












…あたしにしては、ずいぶん、思い切ったことをしてしまった。




バスに飛び乗って、お財布の中身を確認した時に、初めて不安になった。



いったい、自分のどこに

こんなパワーがあったんだろう。





たいしたお金も持たずに

翔くんの行方に確証がある訳でなく

しかも、この嵐の中

よく、家を飛び出したものだ。



自分で感心してしまう。





涼は、電話をしても、メールをしても、一切、反応がなかった。


あたしも、正直、どうしていいか、わからなかった。







『陽菜が、好きだ』




泣きながらそう言った、涼に…

何を、言えばいいの?




正解が見つからなかった。



だれか、答えを教えてほしい。


『この方程式を使って解けば簡単だよ』って

だれか、言ってほしい。





テストでいい点が取れたって

現実に、絡まった糸をうまく解けないのなら

そこに、なんの意味があるというのだろう。






冷たい窓に顔をくっつける。

外は、もう真っ暗だ。 


横から激しく打ち付ける雨音が、耳から脳内を浸食していくような気がした。









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