月の恋人
◆
タケルと出会ったのは、その頃だった。
「噂の天才少年って、おまえ?」
ノックも無しに、いきなり練習室のドアが開いたと思ったら、
そこに立っていたのは先生じゃなくて、見知らぬ少年だった。
当時からやたらと背が高くて、色素の薄い髪の下には、好奇心に溢れた目がキラキラしていた。
「… いきなり、なに? おまえ、だれ?」
貴重な時間を邪魔されて、機嫌の悪い俺の表情なんかお構いなしに、タケルは続けた。
『… もうひとりの天才少年。』
あの時の不敵な笑みは、10年経った今も、ちっとも変わらない。