月の恋人






それは、不思議な体験だった。




そう、いつかの――… 月の光の下で、すらりと緊張が解けていった時と同じ感覚だった。





タケルさんのピアノは、もう“伴奏”なんてレベルじゃなくて

さっきとはアレンジが違って、ポップな感じになっていた。



歌い出しの合図の様に、一拍置いてタケルさんがあたしを見る。





―… あたし、この人の音が好きだ。



―――… 歌いたい。





それは、お腹の底から湧いてくるような自然な欲求で。


胸の高鳴りに手を当てて

震える声を、そっとピアノに乗せた。












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