月の恋人



―――… なぁ。



陽菜、いま何してる?





何考えてる?


俺のこと、少しでも気にしてくれてる?







翔が、戻ってきたっておふくろに聞いた。


奇しくも、俺が家を飛び出したあの夜

陽菜が、翔を連れ戻しに出て行ったという事も。




俺のいない、あの家で。

仲良く、過ごしてんのかな。





――――…そしたら。


俺の居場所は、
もうどこにも無いじゃんか。







―――――――…





揺れる。


風が吹いて、どんどん形を変えていく雲のように。





『陽菜が好きだ』



そう、言ったのは俺だ。


言えば、もう“姉弟”には戻れないって、わかっててそれでも言ってしまったのは―…自分なんだ。



けど。





「―…じゃあ、どうすれば良かったんだよ……」




蝉は、途切れることなく鳴き続ける。



真夏の開放的な空気の中で

俺は、どうしてこんなに、閉塞感に苛まされているんだろうか。



夏休みをこんなに長く感じたのは、始めてだった――…











< 282 / 451 >

この作品をシェア

pagetop