月の恋人
―――… なぁ。
陽菜、いま何してる?
何考えてる?
俺のこと、少しでも気にしてくれてる?
翔が、戻ってきたっておふくろに聞いた。
奇しくも、俺が家を飛び出したあの夜
陽菜が、翔を連れ戻しに出て行ったという事も。
俺のいない、あの家で。
仲良く、過ごしてんのかな。
――――…そしたら。
俺の居場所は、
もうどこにも無いじゃんか。
―――――――…
揺れる。
風が吹いて、どんどん形を変えていく雲のように。
『陽菜が好きだ』
そう、言ったのは俺だ。
言えば、もう“姉弟”には戻れないって、わかっててそれでも言ってしまったのは―…自分なんだ。
けど。
「―…じゃあ、どうすれば良かったんだよ……」
蝉は、途切れることなく鳴き続ける。
真夏の開放的な空気の中で
俺は、どうしてこんなに、閉塞感に苛まされているんだろうか。
夏休みをこんなに長く感じたのは、始めてだった――…