月の恋人






あたしがママにこっぴどく叱られた翌日

翔くんが、家に戻ってきた。



妙に、すっきりした顔をして。



これまで見せていた暗い表情や、ふと遠くを見るような仕草は、どこかへ消えてしまったように思えた。


あたしは
翔くんに感じていた影みたいなものが無くなって、嬉しい一方で……どこか、心から喜べなかった。






――― そこには、涼がいなかった。




家に涼がいないと、そこがひどく広く感じられることを知った。

リビングも、廊下も、庭も。




あの茶色いくせっ毛や
いたずらっぽい瞳が、そこに“ない”というだけで。


世界が、急に輝きを失ってしまったように感じた。









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