月の恋人






「――… 涼は? なんで急におばあちゃん家に行ったの?」


直射日光がじりじりと肌を焦がすような、7月末の午前中。

“スタジオに行くからついて来て”と翔くんに誘われて、2人で並んで駅に向かう途中。

翔くんはそんな風に聞いてきた。





「さぁ……… ママが“気分転換”って言ってたけど…」


「――…ただの気分転換なら、メールの返事くらいするだろ、普通。」




そんな風に探るように翔くんに言われて、不覚にも泣いてしまいそうだった。


――… そんなこと、あたしだって分かってる。


涼が、あたしや翔くんとの連絡を一切絶って、一体いま何を考えているのか。




怒ってるの?

泣いてるの?




会って確かめたいのは、誰よりも、このあたしだ。


家の中に出来た空白を。

あたしの胸の中の空洞を。



涼を連れ戻すことで埋めてしまいたいと願っているのは―――… あたしの、我が儘なのかな。




ねぇ。

戻ってきてよ、涼。




ここに。

あなたの、家に。

あたしの、隣に――…






「―――… 陽菜ちゃん。」

「え?」


翔くんが立ち止まってあたしを見る。

じっと。奥の奥まで、まるで何かを探すように。




「――… 涼と、なにかあった?」

「――… っ…」










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