月の恋人
……… また、この感覚だ。
なにかが、手の中から
するり、逃れていく。
もう少し
もう少しで、手が届きそうなのに。
そこに、涼がいるのに
あと、ほんの数メートルの距離なのに
どうして?
どうして、あたしは…
「戻って、きてよ、涼… 涼のいる場所は、ちゃんと、あるよ…」
「陽菜……」
「あたしが、悪いの、わかる。あたしが、いつまでも甘ったれで、涼が嫌になるのも、わかる。ごめんなさい… だから… 戻ってきてよ…お願い…」
翔くんの腕の中で
涼との距離を感じながら
あたしは、必死だった。
離れていこうとする、涼を
どうしても、引き止めたくて。
けれど
やっぱり、あたしは、バカだ。
何とか涼をこっちに向かせたくて放った、その、言葉は
かえって、火に油を注ぐ結果となってしまう。
「…… すき、なの …」