月の恋人







家に戻ると、
珍しくママがピアノを弾いていた。




『マイウェイ』






ねぇ、ママ。

今なら、ちょっとだけ分かるんだ。


きっとこの曲は、ママの応援歌。




人生で大きな選択を迫られたとき

大切な何かを捨てなければならなかったとき

後ろを振り返らないために


「私は、私の信じた道を、ただゆくだけ」


きっと何度も、その詞を噛み締めて、歌ってきたんだね。




無心に紡がれるその音色に
言葉は無かったけれど

そこに込められた、ママの想いに気付いて
ただ、涙だけがこぼれた。







もう、泣くのはこれで最後にしよう。


自分を責めて、嫌いになって、全てを拒絶していても―…何も、生まれない。





かみさま。


あたしに、一歩踏み出す、勇気をください。




前へ進むための、勇気を。





決意を持って見上げた黒いグランドピアノの上には、一通の白い封筒が置かれていた。


宛名は、ない。

ただ“Invitation”と、書かれてあった。







――…“すべては、心の決めたままに”…







【亜美―ami―】終






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