月の恋人


お客さんとバンド
ステージとフロアの境目なんて、どこにもなくて。


音の波に溺れる幸せっていうのを初めて経験した。



きっとあのとき、
あそこにいたみんな、
ひと時の夢を、一緒に見ていた。


持ち時間の20分を過ぎても
会場の拍手は鳴り止まなくて。


コンテストでアンコール、なんて初めてのことだって

あとで運営事務局の人が言っていた。


(そして調子に乗ってアンコールまで演ってしまったあたしたちは、こっぴどく叱られた。)




最後に歌ったのは、

まさかというか、やっぱりというか、『マイウェイ』。



でも、そこには甘い焦燥や悲壮な決意なんてかけらもなくて。



ただ、ただ
楽しい、マイウェイだった。



“clap hands!”なんて
お客さんも、手を叩いて一緒に歌っちゃうくらい、軽快な。



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