月の恋人
「…ああ、懐かしいな……」
翔くんが、口を開いた。
彼の目の前にあるのは
敷地の東側に広がる果樹たち。
昔、翔くんの家の庭だったところだ。
「…そうだね……翔くん家の、お庭、だね。うちに来てもここまでは入らないから、久しぶりでしょ。」
「……うん………。」
翔くんは
あたしの問い掛けが
聞こえているのかいないのか
ぼんやりと返事をしながら
無花果(イチジク)の木の前で立ち止まる。
「…これも、このままか。……庭さ、全然変わってないんだな。」