あやめ
嵐が去ったかのように、静寂が戻ってくる。
弱く風が吹き抜け、頭上の葉を揺らした。
「なんなんだよ…」
僕は、心の中に残ったわだかまりを吐きだすかのように、小さくつぶやいた。
大勢の女子に追われていた、一人の女子…たしか“ヤマザキ”と呼ばれていた。
まっすぐ長い茶髪の持ち主で、掴んだ腕は驚くほど細かった。
睨みをきかせると迫力満点の大きな目は、背筋が凍るほど冷たい。
傷だらけなのに、それが当たり前みたいに強気な態度が、僕には逆に痛々しく感じた。