あやめ




数日後、再びあの場所に現れたあやめは、いつもと違って静かだった。


静かにやってきて、そして黙って僕の隣に座った。


僕はその横顔を見て、独り言のように言葉をこぼした。


「辛い…だろ…?」


あやめの体がピクンと跳ねて、その瞳の奥に、僕はよく知る影を見た。


(ああ、やっぱり…)


僕はこの瞳を知っている。


大きな悲しみをたたえた瞳。


まるで莉子のように。


そして、僕のように。


「あやめも…大切な人を、亡くしてるんだろ?」


あやめの瞳が大きく見開かれて、みるみる涙の膜が張り、やがて決壊した。


「なんで…」


ポタポタと涙が落ちる。


「なんで、巧には、あたしのことがわかるの…?」


僕はあやめを救いたかった。


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