あやめ

僕たちの未来

頭上からは、葉擦れの音。

グラウンドからは、運動部の掛け声。

音楽室からは、吹奏楽部の基礎練習。

目を閉じると、色々な音が聞こえる。


「巧」


頭の上で声がして、目を開けるとあやめが僕を覗き込んでいた。


「また逃げてきたのか」


僕は、からかうような口調で聞いてみる。


「そ。かくまって」


あやめはどこか楽しげに言い、僕の隣に腰を下ろした。


「なんか、すっきりした顔してるね」


「うん」


あやめの言葉に、僕は体を起こしながら応える。


そして続けた。


「莉子に会いに行ったんだ」


前の週末、僕は初めて、莉子の眠る場所を訪れた。


莉子がこの世を去った日も、遺骨となって葬られた日も、決して足を向けられなかった場所だった。


そうできたのは、まぎれもなくあやめのおかげだった。


「よかったね」


あやめがそっとほほえんだ。
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