月の輪
廻り始め…
満月も近い、月夜だった。

私が事を知ったのは、ほんの数時間前のことだ。

「千歳様。お話がございます。」
「何かあったのか?」

嫌な予感はしていた。

「この家…御影の家では代々、100年に一度生贄を捧げる儀式があるのを知っておられますね?」
もちろん、知っている。当主である以上当然だ。
「それがどうした。」
少し俯いて、遠慮がちにこちらを窺っているのがわかる。
「それが、どうかしたのか?」
声音を少し和らげ、様子を見る。
「大変残念ではございますが…今回の生贄は蜜柑様に決定されました。」
その瞬間、身体を穿たれた感覚があった。そして、それは怒りへと変わった。
「馬鹿を言うな!この愚か者が!!」
私は、読んでいた本をその愚か者に投げつけた。鈍い音が鳴り、本がばさりと落ちた。
「貴様、自分が何を言っているのか、わかっているのか!!」
「承知しているつもりです。」
「何故、当主である私に一言も無しに決まったのだ!」
私よりも遥かに大柄な青年が身を縮めている。おそらく、爺様や姥様方のご意見だろう。しかし、それを認める訳にはいかない。なぜなら、蜜柑は…。
「おねぇちゃん…。」
ドキッとした。まさか、聞かれたりしてないだろうな…。
「ん?どうしたの?怖い夢でも見たの?」
猫撫で声であやす。
「うん。オバケがおってくるの。」
「どんなオバケだった?」
聞いてから、しまったと思った。蜜柑には先を観る力がある。不安定ではあるが、確実だ。最も、どれがそれかは、わかりにくいが。
「えっとね、おっきいつのがはえてるの。それでね、おめめがおつきさまで、ぎんいろのかみのけで…。」
今回は未来を観た可能性が高そうだな。
「わかった。大丈夫それは夢だ。怖がらなくても大丈夫だよ。お姉ちゃんも一緒に寝てあげるから。」
「ホントに?」
「うん。でも、ちょっとお話してから行くから先に行ってなさい。」
「うん、わかった。」
嬉しそうに顔を綻ばせ、寝床へ走っていく。
「あの子は、まだ3つになったばかりだ。私より潜在能力は高い。いずれ、この家の中心を担っていく。」
「では、どうなさると?」
私の心は既に決まっていた。
「全ては明日だ。お前も報告、ありがとう。もう、休みなさい。」
「千歳様…。お休みなさいませ。」
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