水島くん、好きな人はいますか。
「なにがおかしいんですか」
「ごめ、予想以上にハプニングの連続で……っ」
笑いすぎじゃないだろうか。どうせ運悪いもんね……。
「でも家帰ってからも勉強しちょったなんて、えらいな」
「……」
ゆらゆらと、無意識に体が左右に揺れる。
「水島くんに褒められると、嬉しいです」
「なら、何回でも褒めちゃるけん」
じゃあわたしはもっと、勉強がんばろう。
「ところで万代、もしかして雨宿りしちょー?」
雨雲が広がる灰色の空に視線を移す。
「すぐ止むかと思ったんだけど」
「午後から小雨って予報、知らんかったかや?」
「知らなかった……けど、水島くんもでしょう?」
水島くんの手には、傘どころか荷物すら見当たらない。
「俺、小雨で傘を差すって観念がないけん」
「え……? 濡れるのに?」
「去年も一昨年も雪降ったじゃろ? みんな傘差しちょるん見て、度肝抜かれたけん」
「え? 雪なのに? 差そうよ傘」
水島くんはくくっと笑いながら、わたしを見遣る。
「雪でも、地元じゃ傘差す人のほうが少なか。だけん、未だに傘持ち歩くの忘れるんじゃろな」
そうなんだ。わざわざ自分から濡れにいくって、考えられないなあ。
でも水島くんいわく雨は上がらないらしいから、濡れて帰らなきゃいけないってことだよね。