水島くん、好きな人はいますか。

・萌芽



火傷って、時間が経ってもじくじくと痛むから苦手。


「はあ……」


風邪を引いたときも掛かった大学病院の出入り口前。その端っこで零れたため息は、湿った空気と混ざり合う。


病院から出て10分は経ったかも。

自動ドアの開閉音が何度、背後で聞こえたことか。


「マヨマヨ発見」


しとしと降る雨の音を、するりと抜けて耳に入り込んできた声音。


肺にとどまった息を吐き、張り詰めた緊張をゆるめた。


「なにしてるんですか、水島くん」


振り返らずに言うと、隣に水島くんが並んだ。


「ハカセの真似」

「……少しも似てませんでした」

「やっぱり?」


笑いかけてくる水島くんに偶然出くわすかもしれないなんて、今日のわたしも予想していなかった。


放課の教室、本屋と続いて今度は病院の前か……。


「昨日ぶり。万代はなにしちょー? また風邪?」

「ううん。火傷」


手の甲に大きなガーゼが貼られた右手を見せると、水島くんは「うわ、痛そう」と目をしばたたかせる。


「昨日、勉強してるときに落とした消しゴムが、テーブルの下まで転がっちゃって」


拾いに行って出ようとしたら、頭をテーブルの縁に強打した。


頭を抱えて悶えていたら、上から淹れ立て熱々ミルクティーがこぼれてきたという不運。


そう説明しているあいだに、水島くんは俯いて肩を震わせ始めていた。
< 118 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop