水島くん、好きな人はいますか。
・萌芽
火傷って、時間が経ってもじくじくと痛むから苦手。
「はあ……」
風邪を引いたときも掛かった大学病院の出入り口前。その端っこで零れたため息は、湿った空気と混ざり合う。
病院から出て10分は経ったかも。
自動ドアの開閉音が何度、背後で聞こえたことか。
「マヨマヨ発見」
しとしと降る雨の音を、するりと抜けて耳に入り込んできた声音。
肺にとどまった息を吐き、張り詰めた緊張をゆるめた。
「なにしてるんですか、水島くん」
振り返らずに言うと、隣に水島くんが並んだ。
「ハカセの真似」
「……少しも似てませんでした」
「やっぱり?」
笑いかけてくる水島くんに偶然出くわすかもしれないなんて、今日のわたしも予想していなかった。
放課の教室、本屋と続いて今度は病院の前か……。
「昨日ぶり。万代はなにしちょー? また風邪?」
「ううん。火傷」
手の甲に大きなガーゼが貼られた右手を見せると、水島くんは「うわ、痛そう」と目をしばたたかせる。
「昨日、勉強してるときに落とした消しゴムが、テーブルの下まで転がっちゃって」
拾いに行って出ようとしたら、頭をテーブルの縁に強打した。
頭を抱えて悶えていたら、上から淹れ立て熱々ミルクティーがこぼれてきたという不運。
そう説明しているあいだに、水島くんは俯いて肩を震わせ始めていた。