水島くん、好きな人はいますか。

「そっか……なんか、ごめんね。息抜きのつもりが、サボりになっちゃって」


へへ、と情けなく笑う。


「あ、でも塾の課題はやったんだよ。みくるちゃんと一緒に3時間くらい……同じだけサボったら意味ないね」


勝手に出てくる言葉が言い訳に感じて、無性に恥ずかしくなった。


しきりに指を髪へ通し、毛先を気にしているようで本当はアスファルトを見ている。


顔を見られたくない。水島くんに感付かれたくない。


これ以上――。


「なんかあったかや?」


……情けなさを感じたくは、なかった。


「えっと……へへ。なにも」


意識的に体の横に隠したビニール袋の音が、水島くんにはただ持ち替えた音に聞こえていたらいい。



「万代っ! 3秒以内に走ってこい! 全力ダッシュ!」


前を見ると、マンションへ続く歩道のど真ん中に瞬が立っていた。


「……自分からは駆け寄らんあたり、瞬らしかね」

「ご、ごめん水島くんっ」


そう言い残し、瞬のもとまで走っていく。


もう怒られるのは嫌だけど、下手くそな言い逃れをするよりはマシだと思った。


「おせえ。体なまってんじゃねえの。それか太ったな」


たどり着くなり失礼なことを言う瞬の腹に、飲み物が入ったビニール袋を叩きつける。


威力は無いに等しかったけれど、瞬は絶対に避けない。どれだけ些細なことでも、見逃さない。
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