水島くん、好きな人はいますか。

「わりぃな京。面倒かけた」

「それはよかけど、みくるは? 一緒におったんじゃ、」

「とっくに帰した。おら、ミカン。食いたかったんだろ」

「……その辺で買えって言っちょったんに」

「礼だよ、礼。報酬だと思って受け取れ」


すぐそばで水島くんが紙袋を受け取ったのがわかる。ちらりと水島くんの顔をうかがうと、瞬に軽く足を蹴られた。


「じゃ、どーもな。帰んぞ万代」

「あ……あの、水島くん、今日はどうもありが」

「俺への感謝が先だろーがっ!」


背中に体当たりを食らい、よろけた隙に瞬は「気ぃつけてな!」と水島くんに声をかけてしまう。


それが追い払うように聞こえてしまったのは、わたしが少なからず望んでいたことだから。


瞬が迎えに来なければ、わたしはあのまま下手な嘘を並べていたと思う。


以前よりも水島くんがどんな人かわかったからこそ、彼に見抜かれて、頼ってしまいそうになる言葉をもらうことは、避けたかった。


なんでもかんでも助けてもらうような自分にも、なりたくなかった。



今の自分にできることは、考えることだけは諦めないってこと。


小さくて、見事じゃなくてもいい。ひとりで踏ん張ったことがなにかひとつ、ほしい。


困難を乗り越えられたと思えたとき、自信が芽生えるかもしれないから。


その芽生えがいつか、誰かを助けられる強さに育てばいいって思うんだ。



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