水島くん、好きな人はいますか。


6時限目の授業では、今日も補正プリントが配られた。


後半には小テストもやるだろうし、また範囲が増えるのか……やだなあ。そろそろ息抜きしたい。


ここ最近、選抜以外のことも考えているせいか、めずらしく寝付きも悪い。


いろいろと気張りすぎなのかな。でも今気を抜くと、坂道を転がり落ちるように悪いほうへ向かいそうで怖い。


踏ん張るのは、今じゃなきゃだめな気がする。


「残り20分だな。小テストするから筆記用具以外はしまえー」

「うわーっ」


クラスメイトが嫌がったところで教室のドアが開く。


「先生、ちょっとよろしいですか」


E組を訪れたのは事務員だった。


最近では見かけなかった光景に、教室はにわかにざわつき始める。わたしも、「小テスト中止にならないかな」と振り返った前の席の子に笑い返していた。



「――織笠」


教室に顔を出し、手招きをした先生は確かにわたしを呼んだ。クラスメイトの視線が一斉に向けられる。


ひやりとした。なんの用か思考を巡らせるよりも早く、言いようのない不安が体中を駆け巡った。


緊張しながら廊下に出る。先生はわたしの肩に手を置き、腰をかがめた。同じ目線になった先生の瞳が物語るのは、よくないことだと直感する。


「帰る準備をしなさい」


……帰る準備? どうして?
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