水島くん、好きな人はいますか。

「アリーナは中等部と高等部のあいだにあって、体育館とはべつなんです」

「敷地が広大すぎる。連れてって」

「は……、……今なんて?」

「連れてけって言ってんの」


にこりとはじめて笑った彼のそれは、きれいとしか言いようがないのに、わたしは今度こそ本気で震えあがる。


「それくらい、ぶつかった相手に対してできるだろ? 有名進学校、常磐苑学院に通う内部生さんなら」


この人マイペースとかわがままとか、そんなレベルじゃない。瞬がかわいく見えるくらいには、傲岸不遜。


なにを言っても通じない上に、倍返しされる感じがひしひしと伝わる。


「……ついてきてください」


ああ、バカ。わたしの弱虫。


話したくはないから、先に歩みを進めた。それなのに、3歩で隣に並ばれてしまう自分の足の短さを呪った。


「いいね、アンタ。名前は? 学年も」

「……3年の織笠万代です」

「これ地毛?だよな」


するりと髪を掬われ、勢いよく彼から1歩遠ざかる。


触られた部分を押さえつけるわたしに彼は首をひねってから、くすっと嘲笑する。


「ごめんね俺、正直だから。口も手もすぐ出るんだわ」


そして自分は名乗る気もない、と。


本当になんなんだろう、この人……。というかもう助けを呼びたいくらいだ。
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