水島くん、好きな人はいますか。
「あの、これ、すいませんでした」
まとめたプリントを彼は黙って受け取り、封筒の中へ仕舞う。その動作はゆったりとしており、立ち上がるのも忘れて彼を見つめてしまった。
「今日は午前授業って聞いたけど?」
「……、え?」
「13時までには下校するんじゃなかったの?」
「あ……わたしは日直で。あと、今から友達の部活にお邪魔させてもらうので……」
「ふうん。この学校、予想以上にゆるそうだな」
……やっぱり外部生っぽい。でもいくら校則がゆるめでも、その髪色とパーマは引っかかると思う。
「ねえ。アンタ、香水付けてんの?」
「え……。い、いえ、付けてません……」
「なんだ。似合いもしないのに付けてるのかと思った」
柔軟剤の香りかな、と思っていたわたしは再び度肝を抜かれる。たとえ瞬で鍛えられてるといっても、初対面の人に毒吐かれることには慣れていない。
怖い。逃げよう。本能で立ち上がって頭を下げる。
「ぶつかってすいませんでした」
「ところでさ」
え……!? 無視!?
「入学者説明会ってどこでやんの?」
立ちあがった彼に驚かされてばかりだ。彼はわたしが知る同級生の誰よりも背が大きかった。
これは……りっちゃんの観察眼に敵うこと請け合い。
「聞いてる? アリーナってどこ。体育館じゃないの?」
ただし性格に少々難あり。
この居丈高な物言いはなんなのでしょう。さっきと言ってることが違くないですか。