水島くん、好きな人はいますか。

・真綿の悪意



「まず俺に謝れ」

「……すいませんでした」


自室で項垂れるわたしは、夕飯を食べにきた瞬にシノザキくんと知り合いであったことを話した。


わたしが彼と話していたことを友達から聞かされたらしく、瞬は家に来るなり説明を求め、おかげで事前に話していなかったことまでこっぴどく怒られた。


シノザキくんの名前はカノウくん。


瞬が電話帳を見せてくれた。念のため島崎叶くんのアドレスも見てみれば、やっぱり昨晩のメールは彼で間違いなかった。


きっと瞬がわたしをマヨネーズと呼んだか、誰かの陰口を聞いたんだろう。


「いいか万代。叶の言うことを聞く必要はねえ。お前は俺の言うことだけ聞いてればいいんだよ」

「う、んん、うぅん……」

「おいふざけんなよ。お前に与えられた選択肢はハイかイエッサーの二択しかねえんだよ」


どうしよう今日はなにを言われても安心する。


「シノ……叶くんってなに考えてるかわかんない」

「名前で呼ぶな。あいつは暇つぶしに、お前をからかって遊んでんだよ」

「そうかもしれないけど。なんだろう、今まで不特定多数が相手だったから? 島崎くんみたいに単独でってなかったから、対応に困る。無視しづらいっていうか」

「はあ? 多勢に無勢だろうと1対1だろうと、やってること変わんねえだろ。どんだけ暇なんだよ」


前ほど気にならなくはなったけど、高等部でも相変わらず視線が痛いもんね。


「……あれ? 瞬とわたしのこと、一度も触れられてない」


そうだ。彼はただ水島くんのことが好きだろって……。それは瞬に話してないから、言えないけど。
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