水島くん、好きな人はいますか。
すごい時間かかっちゃった……。
話し終わったとき、お母さんのグラスは空になっていた。
「まあ、好きな人に気持ちを伝えるのは、区切るためのひとつの方法ではあるわよね」
「区切る……?」
「友達からカップルになれるし、他人から一気にカップルになれるかもだし。友達関係続行の場合もあれば、解消って場合もあるじゃない。シンプルで手っ取り早いから、あたしはさっさと告白すればっていう推奨派だけど」
「……」
「告白が全てだとは思わないわ。見てるだけ、想うだけが美徳とも思わないけど。単純に分岐点を必要としてる人がするもんじゃないの、告白って」
すらすら話すお母さんの言葉を必死に追う。
「アンタは、どうして水島くんと離れたくないと思うの。好きだから? 付き合いたいから? 一緒にいるだけで楽しいから?」
「……えっ、と……」
考えあぐねるわたしに、お母さんは肩をすくめた。
「なんでもいいんだって。どんな理由でも、それがアンタの根底にあるなら、大事にしなくちゃ」
「……もしそれが自己満足で、理解されないとしても?」
「そうね。理解者がいないっていうのはつらいけど、だからって口を閉ざしたら元も子もないじゃない。……アンタの友達は、全否定しかしないような子たちなわけ?」
はたと浮かんだ、向けられた笑顔の数々。
真正面から。隣から。ときには振り返った先で。
『万代』
わたしを呼ぶ声の多くはいつも、笑顔と一緒にあった。