水島くん、好きな人はいますか。
「おいしい? まずくない?」
「はあ? まずくねえよ。何回お前の飯食ってると思ってんだ」
そうだけど瞬、おいしいって言わないんだもん。
「瞬は味濃いのが好きだよね」
「白米がすすむのが好きって言え」
「……ねえ、瞬」
2個連続でプチトマトを口に入れた瞬は視線をよこす。
「わたしって運あると思う? たとえば宝くじに当選しそうとか」
「ぶっ」と吹き出した瞬は同時にプチトマトを噛んでいたのか、ぴゅっと果汁が飛んできた。
「やだぁー! 汚いっ!」
「げほっ……急になんの話だよ! たとえで宝くじっておかしいだろっ」
「だって、どう切り出せばいいかわかんなくて……倍率が高くても、勝ち取りたいなって話なんだけど……」
「は? もじもじすんな。勝ち取れよ。なにが欲しいんだ」
「学校の、人気行事に、参加できる、権利」
両手の親指と人差し指を合わせたり、離したりを繰り返してから、いっこうに返事をくれない瞬を見る。
ぴくりと反応した瞬は目を背け、「あれか」と言った。
「やっぱり……無理、かな」
「無理じゃねえ」
わたしに目を遣った瞬は、にやりと白い歯を見せる。
「博打上等。無理だったかは挑戦してから言おうぜ」
“言えよ”じゃ、ないんだ。協力してくれるらしい瞬は自信満々の様子で、わたしはへらりと笑った。
「うん。諦めない」
もう一度みんなで、笑い合えるまで。