水島くん、好きな人はいますか。
「――あ」と、声がそろう。
瞬の家から出てすぐ、帰宅したおじさんと鉢合わせた。
「こ、こんばんは。おかえりなさい。……あ、おじゃましてました」
「はは。うん、こんばんは、万代ちゃん」
うっすら皺のある目元をゆるめ、おじさんは「いつもありがとう」と続ける。
なにが? あ、ご飯か……!
持っていた盆の存在を思い出し、急いでかぶりを振った。
瞬の夕飯の他におかずのお裾分けもしているから、おじさんも口にしてくれたのかもしれない。
「ほとんど万代ちゃんが作ってるんだってね。瞬から聞いて驚いたよ。何度かいただいたけど、おいしかった」
「え、あ、ありがとうございますっ」
ぺこりと頭を下げる。微笑んでくれるおじさんは、前に見掛けたときよりも痩せて見えた。
「あの……好きな食べ物ってありますか」
「え?」
「あ、作って持ってこようとしてるわけじゃなくって……えと、わたし麺類が好きで、」
自分の好みを話してどうする!
「しゅ、瞬は肉ってしか言わないので……えと、だから、おじさ……男の人ってなにが好きなのかなって」
しどろもどろに続けた結果おじさんは不思議そうにする。
「私は麺類も肉も好きだけど、煮物がいちばん好きかな」
「……洋食より、和食がお好きですか」
「ああ、そうだね。白米も焼き魚も好きだよ」
頷きながら答えてくれたおじさんに、こてこての和食定食を思い浮かべる。
「参考になります。ありがとうございました」
お辞儀をして立ち去ろうとしたとき、呼び止められた。見向くとおじさんは悲しげとも嬉しげともとれる微笑を浮かべていた。
「いつも瞬と仲良くしてくれて、ありがとう」
……明日も雨。そして謹慎が解け、1週間ぶりに水島くんが、登校してくる。