水島くん、好きな人はいますか。

「だから最近の水島くんは、心の底から笑えていないんだろうなって思いました」


向こうの友達に嫌われてるかもって、不安そう。

救いたいあの子に好きな人がいるかもって、悲しそう。

わたしたちの前から黙って去ることが、申し訳なさそう。


「……友達の目って、すごかね」


隣に並ぶと水島くんが零すから、うっすら涙が滲んだ。


「万代には情けないとこばっか見られちょる気がするなー」


情けないなんて思わないけど……見られたくないのかな。


でも、わたしだけじゃないよ? みんな、水島くんが元気ないときは、気付いてるよ?


瞬は水島くんのこと、たまに転校してきた頃に戻るって。無理して笑わなくてもいいのにって。


みくるちゃんは、効率悪いって。もう少しうまくやればいいのにねって。ハカセも、用があるって教室にまで訪ねておきながら、眠っていた水島くんを起こさずにいてくれたよ。


「みんな水島くんには言わないだけで、本当は気付いてること、たくさんあるんだと思います」

「……そう、なんじゃろうなあ。わかっちょるから俺は……話そうと思ったけん」


ぎゅ、と握られた水島くんの拳を見て、わたしもフェンスに置く手に力を込めた。


水島くんが転校するって知ってから、ずっと、ずっと悲しい気持ちのままで。今でも誰かに、嘘だって言ってほしい。夢でも見たんだって笑い飛ばしてほしい。


好きだから。一緒にいて楽しいから。自分じゃ知り得なかったわたしを、教えてくれたから。
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