水島くん、好きな人はいますか。
断るはずもない。話すために今日、誘いにのった。
1週間前、屋上でわたしは逃げ出してしまったから。
あんなこと、言うつもりはなかった。
彼も、知られるつもりはなかった。
だから今こんなにも、沈黙が緊張をまとっている。
「律にぃから、なにか聞いちょー?」
きっとまたこの話になるって朝から予想していたのに。
“なにか”を指す話を水島くん本人から聞かされたら、自分はどんな反応をしちゃうんだろうって、怖くなる。
「なにかって訊かれたら……はい。聞きました」
「俺のこと?」
「お兄さん相手に、水島くん以外の話をしようがないですよ」
「そっか」
小さく呟いた水島くんの背中が丸く弓なりになっている。
フェンスに肘をかける彼の向こう側から、雨まじりの風が吹き抜けた。
「それで……万代は、どう思ったかや」
嫉妬して、張り合おうとした。
「――って、違うよな。そうじゃないけん。俺は……」
ため息をこぼし項垂れる水島くんは、悩んでいるように見えた。話すべきか、話さないべきか。話すとしても、どう切り出せばいいのか。
……お兄さんに、わたしとなんの話をしたのか訊かなかったのかな。訊いたところで、正直に話す人には思えないのも事実だけれど。
「水島くんは愛されていたんだなって思いました」
たった一度きり。30分にも満たない時間でも、そう思えた。
日が経つほどに、水島くんはお兄さんにも、きっと向こうの友達にも……あの子にも、愛されていたんだなって。